ねじまき日記

音楽・映画・ドラマ・本などの感想文やたまに日記。

悪役令嬢転生おじさん

悪役令嬢転生おじさん(1) (ヤングキングコミックス)

 

 

マジメな公務員・屯田林憲三郎(52歳)が

交通事故に逢ったことで異世界へ転生。

しかも転生先は乙女ゲームの悪役令嬢。

 

かたや髪の毛バーコードの真面目なおじさん。

かたやブロンド縦巻きロールの傲慢な令嬢。

 

中身と器がかなりミスマッチにも拘わらず、

令嬢・憲三郎に周囲が魅了されていくのが面白い。

というか私も彼(彼女?)に魅了されたうちの一人。

 

してこの憲三郎、本当にイイおじさんでして、

10代の子たちが集まる魔法学園で生活しながらも

“ったく、今頃の若いモンは”なんてむやみに偉そうにすることもなく、

「年齢関係なく、良いものは学ばせていただく」というのがモットー。

マジで上司にしたい。

 

そしてその謙虚な人柄、人生経験の豊富さから成る落ち着き、引き出しの多さは、

器と中身のミスマッチどころか知的で気品溢れる令嬢そのものという奇跡。

本来、対立する予定だった正ヒロインですら、

憲三郎をまるで姉のように、否、推しの如く慕うありさま。

 

おじさん×ご令嬢なんて、トリッキーな設定かと思いきや、

内容はほっこり。なんだかとっても優しい世界。

エレガント・グレイス・憲三郎。シャララ~ン♪(好感度が上がる音)

 

 

ところで読みながら

「この漫画は若い方が世のおじさんを想像して描いたのだろうか?」

と、気になっていたら、

あとがきで作者さんが自身のことを含め、

作品が生まれた経緯について言及されていた。

 

作者さんはウン十年前、

コロコロコミックでデビューしたベテランの漫画家さんだそうで、

まさに憲三郎くらいのお歳の方。

 

「自分だったらこういう転生モノを描いてみたいな~」と思ってTwitterに上げたらそれがバズり、単行本化。今に至るらしい。

 

若い作家さんたちの転生漫画に影響を受け、楽しみながら描かれた今作。

バズって良かった…なんかこっちまでうれしい…!

作者さんの文面から滲み出るほっこりな雰囲気…リアル憲三郎じゃん…推せる…

 

長くて似たようなタイトルが多いのもあり、

どれがどれだか分からなくなるほどには

転生モノ・悪役令嬢モノの漫画をけっこう読んだのだけれど、

インパクトが強く、自分の中ではこの悪役令嬢が一番印象深いなー。

イノサン

イノサン 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

 

偉人たちを扱った乙女ゲームの影響で

今更だけどイノサンを読んでみたのですが…

 

1巻まではどうにか読み終えたものの、

表現がグロく、心理的にもエグかったので2巻中盤で挫折(汗

 

でも、実在の人物フランス革命期の処刑人、シャルル=アンリ・サンソン)を元にした内容で、物語は面白い。

そして一コマ一コマ美術品のように緻密な絵で描かれていて、紙面から圧倒的な熱量を感じる。

(自分は生々しくて耐え切れなかったけど、耽美な世界でもあります)

 

なんにせよ、色々衝撃的で。

それで少しネタバレになってしまうんだけど、印象に残ったシーンの覚書き。

※以下、ネタバレ注意↓

 

 

 

若くして先代の処刑人の父に代わり、

ある罪人の首を刎ねることを命じられたシャルル。

 

ところがその罪人というのが、狡猾な父に罪を着せられた、

未だ10代の美しい少年なんです…

 

 

 

そして死刑執行の日。

 

元々優しい性格であるため、

めちゃくちゃな葛藤の末、断頭台の上で半狂乱になり、

何度も何度も少年の首に剣を振り下ろしてしまったシャルル。

 

それを娯楽として見ていた群衆は

 

「年端もいかないような無抵抗の人間をあんな風に殺めて」

「この、人殺しめ」

 

と、言い始めます。

 

なんかこの場面で心抉られちゃって自分は挫折したんですけど、

すごくよくできた描写だなあ、とも思ってしまって。

 

“年端もいかないような”って…

それは首を斬るシャルルも同じような年齢なわけで、

それをさせてるのは周囲の大人たち。

(シャルルは彼の処刑に抵抗していたが、無力に終わってしまった)

そして処刑人の家に生まれてしまったという、運命。

 

命を奪う側と奪われる側、相反する立場でありながら、

“年端もいかない”“無抵抗な人間”という点では似ている二人。

 

ぐちゃぐちゃになってしまった心と肉体との交差を前に

ドクッ、と胸をぶん殴られたような気持ちになってしまいました。

 

そしてもし、私もあの中の群衆の一人だったら―――

同じように「酷い」「この、人殺し」

などと思っていたかも。ゾッ。

 

国の増税に喘ぎ、不満がたまりまくっている最中、

愚かな人間が断罪されるのを見に断頭台の前に群がったものの、

あまりの凄惨な光景を前に、蔑む対象は罪人から処刑人へと移り変わる。

 

当事者ではない者たちにとって、罪は目の前のものでしか語られない。

そしてその、多くの人たちの無責任な正義って、きっと一種の快楽でもあって。

 

いやあ、もうほんと、いつの時代も、人間って…

 

現代では死刑を見世物にするなんて、倫理的にアウトって話だけど、

それに似た心理自体は今でも身近で目の当たりにしがち。

 

“断頭台を見下ろす権力者たち”

“裁き裁かれる断頭台の上の二人”

“それを見ている群衆”

 

それぞれの立場が組み合わさり作られた残酷なシーン。

あまりにも若い二人が可哀想で。

これから処刑人として生きていくシャルルの苛烈なプロローグとして

深く印象に残りました。

 

 

んー…元々自分の感想が長ったらしいのを差し引いても、

ちょっと読んだだけで色々思うことが出てくるこの漫画。

きっと読み終えたらもっと胸にくるものがあるのかもしれない、、

 

エログロ苦手な人はまず無理だろうけど、読み応えある内容だなと思います。

(それでもメンタルが持たんのでリタイアするけど)

スキップとローファー

スキップとローファー(1) (アフタヌーンコミックス)

 

絵がかわいいな~、と思いつつも読まずにいた話題の作品。

レンタルで借りて7巻までイッキ読み。

 

や~、良い漫画だァ~。

 

田舎から東京の高校に入学した主人公を中心とした、ほのぼの学園生活。

これといってものすごく大きな事件ってないんだけど、

高校時代のワクワクもドキドキもズキズキした気持ちも。

あ~、同じようなことあったな、似たようなこと考えてたな、って

読みながら鮮やかに蘇ってきた。

この漫画に出てくる“ナオちゃん”とほぼ同世代の私は

高校生活なんてもう20年ばかし前のことなのにね(笑)

 

 

 

 

※以下、ちょいネタバレ

 

登場人物みんな愛おしいんだけど、

最初「うわ、絶対女子に嫌われるタイプやん…」と思ってたミカちゃん。

(人のステータスみて顔色変えるあざといやーつ)

 

主人公に対しても当たりが強かったし、いけすかねえ~、と思っていたものの

読み進むにつれ、一番感情移入する結果に。

 

昔は太っていて周囲からいじめられ気味だった彼女。

努力で痩せて、オシャレなカワイイ子になったけど、

未だにどこかコンプレックスから抜け出せず、

つい人を見下してしまったり、素直になれなかったり…

 

自己肯定感が低くて尚且つそれをこじらせちゃってるとさ、

本当は承認欲求でいっぱいなくせに、いざ褒められたり好意を持たれたりすると

「あんた私の何を知っているんだよ」って妙な怒り湧いてくることあるよね。

わたしもそうだったよ…ミカちゃん…(周囲からすればただのめんどくさい奴でしかない)

 

自分の中に「“こう”じゃなきゃ愛されない」っていう思い込みがあって、

めいっぱい背伸びしようとしてるんだけど、

でも、本当の自分は“そう”じゃないからなのかな。

 

私は賢くて優しい人が好き

思いやりがあって 周りもよく見えてて

私の浅ましさなんてお見通し そんな人

だから私が 

好きな人から好きになってもらえることはない

 

この台詞…あぁぁぁ~~~ミカちゃぁぁ~~~ん!!!(泣)

ってなっちゃった。

 

賢い、ってのはもちろん、

勉強が出来るとか物知りとかって訳じゃなくてね。

ミカちゃんの台詞、めんどくさい気持ちの言語化がすごい的確。

 

今となればなんて自意識過剰で傲慢なんだ!!って思うし、

実際、高校の時めちゃ仲良かった友達に

「自分のことを嫌いって言うアンタは自分の嫌な部分を認めたくないただのナルシスト」って言われたことがあるよ、あたしゃ。

辛辣だけど実に的確な我が友人(笑)

 

でも、いつかは知らぬ間に

友達であれ恋人であれ、そんなめんどくさい感情忘れちゃうくらい、

一緒に居て心地よい人が出来てたりするんだよねー

ミカちゃんにとって、今がその時なのかも?

 

ついつい、ミカちゃんの闇の部分に惹かれてしまったけれど、

ピュアな主人公を中心に、ほんとみんないい子たちばかりでほっこりするよ。

 

中学まではホントに分かりやすい情報が全てで、

(見た目が良いとか悪いとか、運動できるとか出来ないとか)

スクールカーストえぐかった記憶があるんだけれど、

 

でも、高校は

一見自分とは全然違う!と思ってた人たちが

実は根っこの部分で気が合ったり、同じような悩みを抱えてたり。

そんなことを知った、愛おしい時代だった。

 

ええのう、青春。

いろんな感情を思い出させてくれる物語でした。

続きが楽しみー

 

 

緑の歌

この前の清水ミチコさんのライブで、ある漫画が紹介されていた。



緑の歌 - 収集群風 - 上 (ビームコミックス)

 

台湾の方が描かれた、「緑の歌」というおはなし。

 

 

作者さんのツイート↓

 

 

 

静かな映画を見ているような漫画だった。

 

 

どういう話?と聞かれても

まとめて言うのがむずかしいんだけど、

 

この漫画に出てくる音楽、漫画、小説、そして少し苦い感情。

そして淡くてやさしくて、でも鮮烈な片想い。

何かを“好き”という気持ちが突き動かした冒険。

 

そのひとつひとつへの「共感」とはまた違う、

自分の記憶にあるアイテムが新鮮な状態で掘り起こされてるようなお話だった。

 

とても懐かしかった。

…いや、懐かしいのともまた、少し違うかな。

 

 

私はこの物語に出てくる主人公の本棚を見るのが好きだ。

 

岡崎京子魚喃キリコガロ系、、、主人公の女の子はいわゆるサブカル女子。

 

今はもう読まなくなったし手放してしまったけれど、自分が昔読んでいたものたちが、

国境を越え、台湾の若い娘の本棚に置かれているのが

うれしいような、不思議なような感覚がした。

 

彼女には片想いの相手がいて、

その恋は音楽(その中でも特に細野晴臣)を通して語られていく。

 

そして細野晴臣のコンサート見たさに日本へ渡る彼女。

自分の中にある、ちょっとした勇気。

それを自覚したときの興奮は私にも覚えがある。

 

彼女と比べれば規模が小さいけれど、

それまで一人で飛行機に乗ったことが無かった自分が、推しのイベント見たさに東京に行った時のことを思い出した。

その時の飛行機のチケットは、今でも大切な宝物だ。

 

 

 

漫画の中には私の好きなゆらゆら帝国の歌も出てきた。

 

 

初めてギターに触れるような

本当に恋をしてるような

もう一度何かやれるような

不思議な気分さ

 

先ほど私は彼女の本棚を見て「懐かしい。…いや違う」と言った。

 

 

随分いい歳なのに未だに大人になりきれてない自覚のある私は

それらを隠すため「昔の話ですよ」と言い訳じみた前置きをするようになっていた。

 

だけど、他人に自分の幼稚さを見せるのが恥ずかしく思う反面、

それを失いたくないと思う自分も居たのだな、

という事にこの漫画を読みながら気づいた。

 

 

物語のなかにこういう台詞がある。

(言い回し変えてます)

 

人は22歳までの間に憧れや心酔できるものがあれば

それが形のあるものでも そうでなくても

心にとても深い穴を残していくから 絶対に忘れることは無い

 

 

なるほど。

確かに、あの頃味わったものってすごく鮮烈で、

形や温度は変わっても、どこかでずっと続いてる気がする。

 

だから“懐かしい”とは違ったのかもな。

 

失われた訳ではなく、ずっと心の中にいたもの。

時間や国境さえも超え、その存在を再び思い出させてくれるような。

そんな物語でした。

 

レンタルで1回しか読めんかったけど、

これは買って手元に置いておこうかな。